【税務】第129弾 低解約返戻型保険等に関する評価額の改正について

 令和元年7月8日以降契約された生命保険契約等の保険料について損金算入額の見直しが行われ、解約返戻率の高い生命保険契約等に関する損金算入額が縮小されたことは記憶に新しいと思います。このように節税目的の生命保険契約等に対する税務当局の規制が強まる中、令和3年7月以降、いわゆる低解約返戻型保険等に関する取り扱いについても改正が行われ、生命保険等を用いた節税に対してさらなる規制が行われることになりました。

低解約返戻型保険の契約者変更の従来の取扱い

 法人が生命保険契約等の名義を無償で役員等に変更する場合には保険の評価額を役員等に対する給与として取り扱うこととされています。この際の保険の評価額は、従来は名義変更時の解約返戻金の額とすることとされていました。このため、契約後一定期間の解約返戻金の額が低く抑えられた保険商品(いわゆる低解約返戻型保険)を法人契約し、一定の期間内に役員等に名義変更した場合には次のような課税の取扱いとなっていました。

  1. 名義変更で保険契約者となった役員等には前述の通り給与課税がされますが、その金額は名義変更時の解約返戻金の額とされていたため、低解約返戻型保険で解約返戻金が低額に抑えられている期間内に名義変更すると、当該低額な解約返戻金の額による給与課税がなされることとなっていました。名義変更後、解約返戻率が上がった後に保険を解約することで高額な解約返戻金を一時所得で受け取ることとなります。一時所得として受け取るため、所得税が課税されるのは50万円の特別控除額後さらに2分の1とした金額になります。
  2. 法人としても、令和元年7月以降は返戻率の高い生命保険等は損金計上できる金額が縮小されましたが、低解約返戻型保険を用いることにより資産計上額と名義変更時の解約返戻金の額との差額を保険契約の譲渡損失として損金計上することができました。

改正の内容

 今回、保険契約等に関する権利の評価について定めた所得税基本通達36-37が改正され、法人から個人への名義変更の際の保険契約等に関する評価額(すなわち無償で名義変更された際に給与課税される金額)は以下の通り変更されました。

改正の影響を受ける契約名義変更時の保険の評価額
改正前改正後
名義変更時の解約返戻金の額(※1)が法人の資産計上額(※2)×70%よりも少額となる保険(低解約返戻型保険)名義変更時の解約返戻金の額(※1)名義変更時の資産計上額(※2)
復旧する(変更前の契約に戻す)ことのできる払済保険等名義変更時の資産計上額(※2)+法人税基本通達9-3-7の2の取扱いにより払済保険への変更時に損金に算入した金額
  1. 解約返戻金のほかに支払われることになる前納保険料、剰余金の分配額等を含みます。
  2. 法人が支払った保険料の額のうち、法人税基本通達の取扱いにより資産に計上すべき金額であり、預け金などで処理した前納保険料の金額や未収の剰余金分配額等を含みます。

 上記の改正は、令和3年7月1日以降に行われる名義変更に適用されますが、注意すべきは改正前に締結された生命保険契約等にも遡及適用されるという点です。具体的には、令和元年7月8日以後に契約された保険契約を令和3年7月1日以降に名義変更した場合には今回の改正が適用されますので、過年度に契約済みの保険契約の名義変更を検討する場合には注意が必要です。

税理士 浅岡篤史

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