会社オーナーで、個人で所有する不動産を自身がオーナーである会社(以下、「オーナー会社」といいます。)に賃貸し、地代や家賃などの賃貸収入を受け取っている方は多いと思います。賃貸している不動産が数件程度と限定的で、賃貸収入が1,000万円もない免税事業者のため消費税は関係ないと思ってきた方も、令和5年10月のインボイス制度の開始に向けて消費税への対応が必要になる可能性があります。
1.インボイス制度
インボイス制度とは、令和5年10月から導入される複数税率に対応した仕入税額控除の方式です。仕入税額控除とは、消費税額の計算において、課税売上に係る消費税から、課税仕入などに係る消費税を差し引いて計算するしくみです。インボイス制度が導入されると、買手側は原則として「適格請求書(インボイス)」の保存が仕入税額控除の要件とされ、売手側は買手から求められたときはインボイスを交付しなければなりません。インボイスを交付するためには、消費税の課税事業者となって「適格請求書発行事業者」として国税庁に登録する必要があります。
なお、経過措置としてインボイス制度導入後6年間は免税事業者からの仕入について以下の取り扱いを受けられます。
- 令和5年10月〜令和8年9月の3年間は免税事業者からの課税仕入れについても、その仕入税額相当額の8割について仕入税額控除を適用
- 令和8年10月〜令和11年9月の3年間は免税事業者からの課税仕入れについても、その仕入税額相当額の5割について仕入税額控除を適用
2.不動産賃貸収入の課税売上、非課税売上
不動産賃貸収入には、消費税の課税売上となる収入と、非課税売上となる収入があります。
課税売上:店舗、事務所、倉庫、駐車場の賃貸収入 など
非課税売上:住宅の家賃収入、土地の地代収入 など
オーナーが、会社に社宅や土地のみを貸している場合は、もともと消費税は課税されていないため、インボイス制度が導入されても対応の必要はありません。
3.消費税の簡易課税制度
簡易課税制度は、中小事業者の事務負担を軽減するため、基準期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者は、原則的な仕入税額控除に代えて、課税売上に係る消費税額に、事業の種類の区分に応じて定められた、みなし仕入率を乗じて算出した金額を控除対象仕入税額とすることを選択できる制度です。
オーナー会社が簡易課税制度を選択している場合は、会社の消費税計算にインボイスが不要であるため、インボイス制度が導入されてもオーナーに対応の必要はありません。
4.課税売上がある場合
オーナーが、そのオーナー会社から課税売上となる不動産賃貸収入を受け、かつ、オーナー会社が本則課税の場合、オーナーは免税事業者を継続するか、課税事業者となるかを検討する必要があります。
結論としては、オーナーは、上記1.の経過措置期間の6年間は免税事業者を続け、オーナー会社側で経過措置の適用を受ける。
この経過措置期間経過後はオーナーが課税事業者となり、適格請求書発行事業者登録を行った上で、簡易課税を選択することで、オーナーとオーナー会社の合計での消費税の追加納税額を少なくできる場合が多いと考えられます。
ただし、オーナーが課税事業者となるとインボイスの発行業務や、消費税の申告などの事務コストが増加します。そのため、消費税の追加納税額の面では不利になることを承知の上で、経過措置期間経過後もあえて免税事業者を続けるという選択もあり得ます。
今回のオーナーのような小規模事業者への消費税課税は、免税事業者か課税事業者の選択肢、課税事業者になった場合の本則課税か簡易課税かの選択肢があり、それぞれのメリット、デメリットを比較検討する余地が多くあります。
また、消費税の各種届出は、法人については事業年度の開始前まで、個人事業者については暦年の開始前までに行う必要があることから、どのような選択肢がオーナー自身にとって有利で納得感があるのかについて、早めに専門家と検討しましょう。
税理士 花村崇裕