若者の地方からの流出、少子高齢化の加速などにより、地方経済は弱体化していると言われています。若者の人口流出を阻止するため、地方における雇用の創出は重要な課題となっています。一方、東京は一極集中がさらに進み、その是正の観点からも、令和4年度税制改正では地方拠点強化税制の適用期限が令和6年3月末まで2年間延長・拡充されました。この制度の概要とともに、拡充された項目を確認します。
1.地方拠点強化税制の概要
この税制は、地方への新たな人の流れを生み出すことが趣旨とされています。具体的には、企業が本社機能(特定業務施設)の全部又は一部を東京23区から地方へ移転する場合や東京23区以外の地方から別の地方に移転する場合(移転型)もしくは地方にある特定業務施設の拡充を行う場合(拡充型)に、建物などの取得価額や雇用者の増加数に応じて税制優遇措置を受けることができる制度です。
ここでいう特定業務施設とは、次のものを指します。
調査・企画部門、情報サービス事業部門、研究開発部門、国際事業部門、その他管理業務部門のために使用される事務所や、研究所及び研修所といった施設です。なお、工場や店舗は特定業務施設には該当しませんが、業種に制約はなく、登記簿上の本店である必要もありません。
2.税制優遇措置の概要
税制優遇措置を受けるには「移転型」「拡充型」について一定の整備計画を作成したうえで、移転・拡充先となる都道府県知事へ申請し、当該計画を開始する前(着工前)までに認定を受けることが必要となります。
認定事業者が受けられる主な優遇措置(図表)は以下の通りです。
(1)オフィス減税
地方で特定業務施設を新設・移転又は増設する場合に、建物などの取得価額に応じて、特別償却又は税額控除のいずれかの適用が受けられます。
・東京23区から地方へ移転する場合(移転型)
特別償却は建物などの取得価額の25%です。税額控除については建物などの取得価額の7%です。
・地方で拡充する場合(拡充型)
特別償却は建物などの取得価額の15%です。税額控除については建物などの取得価額の4%です。
なお、対象となる資産は特定業務施設に該当する建物及び建物付属設備ならびに構築物であることが必要です。また、それらの取得価額の合計額が2,500万円以上(中小企業者においては1,000万円以上)のものが対象となります。但し、税額控除については当期法人税額等の20%が限度となります。
(2)雇用促進税制
地方で新たに従業員を雇い入れる場合などに、その増加した従業員の数に応じて、税額控除を受けられます。その場合、一人当たりの税額控除額は新規雇用者と転勤者との間で異なる金額となっています。
税額控除額を具体的にみると、新規雇用者一人の増加につき、移転型は50万円、拡充型は30万円の控除額となります。また、転勤者一人の増加につき、移転型は40万円、拡充型は20万円の控除額となります。さらに、移転型については一定の要件を満たす場合、増加雇用者一人につき、40万円の税額控除額を最大3年間追加する上乗せ措置があります。但し、特定業務施設の雇用者数や法人全体の雇用者数が減少した事業年度以降は上乗せ措置が適用されません。
移転型 | |
《オフィス減税》 | |
税額控除 | 建物などの取得価額に対して、特別償却25%又は税額控除7% |
限度額 | 当期法人税額等の20% |
《雇用促進税制》 | |
税額控除 | 雇用者増加数に応じて、次の金額の合計を税額控除 【新規雇用者】一人の増加につき、50万円 【転勤者】一人の増加につき、40万円 【上乗せ分】一人の増加につき、40万円は最大3年間継続 |
限度額 | 当期法人税額の20% |
拡充型 | |
《オフィス減税》 | |
税額控除 | 建物などの取得価額に対して、特別償却15%又は税額控除4% |
限度額 | 当期法人税額等の20% |
《雇用促進税制》 | |
税額控除 | 雇用者増加数に応じて、次の金額の合計を税額控除 【新規雇用者】一人の増加につき、30万円 【転勤者】一人の増加につき、20万円 |
限度額 | 当期法人税額の20% |
税理士 大矢 啓資