1.制度創設の趣旨
政府は、「新しい資本主義」の実現に向けた取組を進めています。令和4年11月28日に発表した「スタートアップ育成5か年計画」において、スタートアップは「新しい資本主義」の考え方を体現するものとしています。そのスタートアップを生み育てるエコシステムを創出するために、第一の柱として「スタートアップ創出に向けた人材・ネットワークの構築」、第二の柱として「スタートアップのための資金供給の強化と出口戦略の多様化」、第三の柱として「オープンイノベーションの推進」、という3つの柱が提唱されました。このうち第二の柱の「スタートアップのための資金供給の強化と出口戦略の多様化」のために、個人を対象とした特定新規中小企業者が設立の際に発行した株式の取得に要した金額の控除等の特例制度が創設されました。
ここでは、第二の柱の「スタートアップのための資金供給の強化と出口戦略の多様化」のための税制措置について説明します。
2.制度の概要
令和5年4月1日以後に、その設立の日の属する年の12月31日において中小企業等経営強化法に規定する特定新規中小企業者に該当する株式会社で次に掲げる要件を満たす株式会社によりその設立の際に発行される株式(以下、「設立特定株式」といいます)を払込みにより取得をした居住者等(当該株式会社の発起人に該当することその他一定の要件を満たすものに限ります)は、その取得をした年分の一般株式等に係る譲渡所得等の金額又は上場株式等に係る譲渡所得等の金額からその設立特定株式の取得に要した金額の合計額(当該一般株式等に係る譲渡所得等の金額及び当該上場株式等に係る譲渡所得等の金額の合計額を限度とします)を控除することができることとなりました。
- その設立の日以後の期間が1年未満の中小企業者であること。
- 販売費及び一般管理費の出資金額に対する割合が100分の30を超えることその他の要件を満たすこと。
- 特定の株主グループの有する株式の総数が発行済株式の総数の100分の99を超える会社でないこと。
- 金融商品取引所に上場されている株式等の発行者である会社でないこと。
- 発行済株式の総数の2分の1を超える数の株式が一の大規模法人及び当該大規模法人と特殊の関係のある法人の所有に属している会社又は発行済株式の総数の3分の2以上が大規模法人及び当該大規模法人と特殊の関係のある法人の所有に属している会社でないこと。
- 風俗営業又は性風俗関連特殊営業に該当する事業を行う会社でないこと。
この制度は、特定中小会社が発行した株式の取得に要した金額の控除等及び特定新規中小会社が発行した株式を取得した場合の課税の特例(以下、「エンジェル税制」といいます)と選択して適用することができます。
この場合において、その取得をした設立特定株式の取得価額は、当該控除をした金額のうち20億円を超える部分の金額をその取得に要した金額から控除した金額とします。また、特定中小会社が発行した株式に係る譲渡損失の繰越控除等の適用対象となる株式の範囲に、設立特定株式が加えられました。
3.その他の税制措置
第二の柱の「スタートアップのための資金供給の強化と出口戦略の多様化」のためのその他の税制措置として、エンジェル税制及び特定の取締役等が受ける新株予約権の行使による株式の取得に係る経済的利益の非課税等(以下、「ストックオプション税制」といいます)についても措置が講じられました。
(1)エンジェル税制
エンジェル税制とは、下記のうちいずれかの選択適用及び対象企業の株式譲渡損を他の株式譲渡益と通算(3年間の繰越可能)できるものです。
- 対象企業への投資額から2,000円を控除した金額をその年の総所得金額から控除します。(控除対象となる投資額の上限は、総所得金額×40%と1,000万円のいずれか少ない金額)
- 対象企業への投資額をその年の他の株式譲渡益から控除します。(控除対象となる投資額の上限なし)
エンジェル税制については、適用対象となる中小企業者の要件緩和や、②は課税の繰延措置であったものが一定額は非課税となるなどの措置がとられました。
(2)ストックオプション税制
ストックオプション税制とは、権利行使時の取得株式の時価と権利行使価格との差額に対する給与所得課税を株式売却時まで繰り延べ、株式売却時に売却価格と権利行使価格との差額を譲渡益課税とする税制です。
このストックオプション税制について、一定の新株予約権の行使期間が15年に延長されることとなりました。
詳しい内容、手続等については税理士にお尋ねください。
税理士 屋敷育孝