ストックオプション税制の拡充
はじめに
令和6年度税制改正では、スタートアップ・エコシステムの抜本的強化の一環として、ストックオプション税制の拡充が行われました。その内容としては、①発行会社自身による株式管理スキームの創設、②年間の権利行使価額の限度額引上げ、③社外高度人材に対する付与要件の緩和、手続負担の軽減が行われました。
スタートアップは、イノベーションを生み出す主体として、日本経済の潜在成長率を高める重要な存在です。一方で、スタートアップ企業は、資金をはじめ経営資源に乏しい面があります。ストックオプション税制が拡充されることで、人材確保が容易になり、スタートアップ企業の成長を促進させる効果があります。
1. ストックオプション税制
ストックオプションとは、会社が自社または子会社の従業員、役員などに対して付与する自社株式を一定の期間内にあらかじめ定められた権利行使価格で購入することができる権利をいいます。企業は、ストックオプションを付与することで、有能な人材確保や従業員のモチベーション向上が見込まれます。
ストックオプションは、付与決議により無償で付与され、権利行使することにより株式を取得します。株式を取得した場合には、権利行使時における取得株式の時価と権利行使価額との差額に対する給与所得課税が行われます。ストックオプション税制の適用を受けて取得する場合には、権利行使時における取得株式の時価と権利行使価額との差額に対する給与所得課税を株式譲渡時まで繰り延べ、株式譲渡時に譲渡価額と権利行使価額との差額を譲渡所得として課税することが可能になります。このようなストックオプションを税制適格ストックオプションといいます。
2. 発行会社自身による株式管理スキームの創設
非上場の段階で税制適格ストックオプションを行使し株式に転換した場合には、証券会社などと契約し、専用口座を従業員ごとに開設した上で株式を保管委託する必要がありました。譲渡制限株式については、発行会社の管理などがされる場合、証券会社などによる株式の保管委託に代えて、発行会社による株式の管理も可能となりました。
3. 年間の権利行使価額の限度額引上げ
改正前、税制適格ストックオプションに係る年間権利行使価額は、一律1,200万円でした。改正後、設立の日以後の期間が5年未満の株式会社が付与するストックオプションについては、限度額が2,400万円に引き上げられました。また、設立の日以後の期間が5年以上20年未満である株式会社(非上場会社又は上場後5年未満の上場会社)が付与するストックオプションについては、限度額が3,600万円に引き上げられました。
4.社外高度人材に対する付与要件の緩和・手続負担の軽減
新たに、教授及び准教授、上場会社役員で役員経験1年以上の者、非上場会社役員で役員経験1年以上の者などが追加され、国家資格保有者などに求めていた3年以上の実務経験の要件が撤廃され、社外高度人材の対象範囲が拡大しました。
手続負担については、権利者が電磁的方法により提出書面などに記載すべき事項を記録した電磁的記録を提供できることとするなど、所要の措置が講じられました。
おわりに
スタートアップ企業は、短期間に急成長が見込まれ、社会に新たなイノベーションを生み出す企業です。このような企業を税制でバックアップすることは、ストックオプション税制に限らず、日本の停滞した経済を活性化させるための良い制度であると考えます。
税理士 小菅祐介