はじめに
既に3月に入り、所得税の確定申告の期限が迫ってきました。長きにわたって低金利が続いていることに加え、個人の資産を貯蓄から投資へと振り向けることを政府が推進していることもあって、株式や投資信託などによる資産の運用を行っている方も多いと思います。多くの方は確定申告が不要な源泉徴収ありの特定口座(以下「源泉徴収口座」といいます)を利用されていると思いますが、源泉徴収口座でも確定申告をした方が良い場合があります。本稿ではどのような場合に確定申告をした方が有利になるか説明します。
なお、以下の説明は株式などの譲渡により生じた所得や損失を対象として記載しています。源泉徴収口座で生じた上場株式などの配当などによる所得を確定申告することの有利、不利については別途検討が必要です。
1.口座の種類
投資にあたって口座を開設する場合、一般口座、特定口座(源泉徴収なし)、特定口座(源泉徴収あり)の中から口座の種類を選択します。一般口座では年間の損益を自分で計算する必要がありますが、特定口座では金融機関が年間の損益を計算し「年間取引報告書」という書類にまとめてくれます。
特定口座は更に2つに分けられ、源泉徴収口座を選ぶと年間の損益に基づいて金融機関が税金の計算を行って源泉徴収します。従って利用者は確定申告をする必要がありません。源泉徴収なしの口座を選んだ場合は年間取引報告書に基づいて利用者が自身で確定申告を行う必要があります。
2.確定申告した方が良い場合
(1)他の口座の損失と通算を行う場合
証券口座を2つ以上持っている場合、1つの口座で利益が出ても、他の口座で株式などの譲渡損失が生じてしまう場合もあると思います。源泉徴収口座はその口座内で生じた利益と損失を通算して正味の利益に対する税金を計算してくれるのですが、他の口座で出た損失との通算はしてくれません。もしお持ちの口座の中で損失の出た口座があった場合、確定申告をすることによってある口座で生じた利益から別の口座で生じた損失を差し引きすることができます。これにより利益が少なく計算され、税金も少なくすることができます。
(2)損失の繰越控除を行う場合
源泉徴収口座において口座内の年間の損益を通算した結果、マイナスになってしまった場合も確定申告した方が良い場合があります。源泉徴収口座ではその年の損益の通算はしてくれますが、その年の損失をその後の利益と通算することはしてくれません。しかし確定申告をすることにより、ある年に生じた損失を3年間繰り越すことができます。もしX1年に損失が出ても確定申告をしておけばX4年までに利益が出た場合、その利益からX1年の損失を差し引くことができ、税金を少なくすることができます。
損失の繰越控除を行うためには損失が出たその年だけでなく、その後の年も確定申告をし続ける必要があります。例えば、X1年に出た損失を確定申告した後、X2年には取引がなくても、X1年の損失をX3年以降に繰り越すためにX2年も確定申告をする必要があります。
3.確定申告にあたっての注意点
上記2のような場合には確定申告をした方が良いことが多いのですが、実際に確定申告をすることで住民税や国民健康保険料などの金額が増えたり、扶養親族から外れてしまったりといった影響が出ることがあります。従って確定申告するかどうかの判断にあたっては慎重な検討が必要です。
おわりに
確定申告が不要である源泉徴収口座で投資を行っている場合でも確定申告をした方が良い場合について説明してきました。一度ご自身の特定口座年間取引報告書をご確認いただき、上記に当てはまる場合には確定申告することをご検討ください。不明な点がございましたら、税理士にお尋ねください。
税理士 遠山健志