Ⅰ はじめに
令和7年3月4日に令和7年度税制改正が衆議院を通過しました。本記事は令和7年3月5日時点の情報に基づき記載しています。
個人所得課税については物価上昇局面における税負担の調整及び就業調整対策の観点から、令和7年分以後の個人所得課税について以下の内容で減税措置が盛り込まれました。① 基礎控除の引き上げ、② 基礎控除の上乗せ特例、③ 給与所得控除の最低保障額の引き上げ、④ 大学生年代の子などに係る新たな控除の創設、⑤ ①~④までの改正に伴う各種所得控除の控除要件などの見直しが行われます。
Ⅱ 個人所得課税の主な改正内容
①基礎控除の引き上げ
所得税の基礎控除について、合計所得金額が2,350万円以下である個人の控除額を現行の48万円から10 万円引き上げ、58万円となります。
なお、合計所得金額が2,350万円超の高所得者及び地方税の基礎控除については改正がなく、合計所得金額2,350万円以下の場合の所得税と地方税の基礎控除の差は現行の5万円から15万円に広がります。
令和7年以降の所得税及び地方税の基礎控除の額は以下の通りとなります。
合計所得金額 | 所得税 | 地方税 |
---|---|---|
2,350万円以下 | 58万円 | 43万円 |
2,350万円超 2,400万円以下 | 48万円 | 43万円 |
2,400万円超 2,450万円以下 | 32万円 | 29万円 |
2,450万円超 2,500万円以下 | 16万円 | 15万円 |
2,500万円超 | 0円 | 0円 |
②基礎控除の上乗せ特例
物価上昇に対応し税負担を軽減する観点から低中所得者層の基礎控除の上乗せ特例が創設されています。
令和7年の所得税の基礎控除の上乗せ額は以下のとおりとなります。(37万円の上乗せは恒久措置、その他は令和7,8年の時限措置)
合計所得金額 | 給与収入 | 所得税 |
---|---|---|
132万円以下 | 200万円以下 | 37万円 |
132万円超 336万円以下 | 200万円超 475万円以下 | 30万円 |
336万円超 489万円以下 | 475万円超 665万円以下 | 10万円 |
489万円超 655万円以下 | 665万円超 850万円以下 | 5万円 |
655万円超 | 850万円超 | 0円 |
③給与所得控除の最低保証額の引き上げ
所得税及び地方税の給与所得控除について、最低保障額を現行の55万円から10万円引き上げ、65万円となります。
④大学生年代の子などに係る新たな控除の創設(特定親族特別控除)
居住者(地方税では納税義務者)が生計を一にする年齢19歳以上23歳未満の親族など(その居住者の配偶者及び青色事業専従者等を除くものとし、合計所得金額が123万円以下であるものに限る。)で控除対象扶養親族に該当しないものを有する場合には、その個人の総所得金額などから控除できる所得控除が創設されます。
これにより、大学生の子のアルバイトによる収入が150万円までは、親の所得控除を満額受けることができます。また、150万円を超えてしまった場合でも、配偶者特別控除のように、徐々に控除が減少するように措置されています。
特定親族特別控除の額は以下の通りです。
親族等の合計所得金額 | 所得税 | 地方税 |
---|---|---|
58万円超85万円以下 | 63万円 | 45万円 |
85万円超90万円以下 | 61万円 | 45万円 |
90万円超95万円以下 | 51万円 | 45万円 |
95万円超100万円以下 | 41万円 | 41万円 |
100万円超105万円以下 | 31万円 | 31万円 |
105万円超110万円以下 | 21万円 | 21万円 |
110万円超115万円以下 | 11万円 | 11万円 |
115万円超120万円以下 | 6万円 | 6万円 |
120万円超123万円以下 | 3万円 | 3万円 |
123万円超 | 0円 | 0円 |
⑤上記①~④までの見直しに伴い、以下の所得控除の要件などが見直されます。
- 同一生計配偶者及び扶養親族の合計所得金額要件を現行の48 万円以下から58 万円以下に10万円引き上げる。
- ひとり親の生計を一にする子の総所得金額などの合計額の要件を現行の48 万円以下から58 万円以下に10万円引き上げる。
- 勤労学生の合計所得金額要件を現行の75万円以下から85万円以下に10万円引き上げる。
- 所得税については家内労働者などの事業所得などの所得計算の特例について、必要経費に算入する金額の最低保障額を現行の55万円から65万円に10万円引き上げる。
Ⅲ 終わりに
今回の改正により、パート、アルバイトに多く労働力を依存する事業者には年末の働き控えの緩和が期待されます。また、主婦の社会保険の問題があるものの、給与収入160万円までは非課税となり手取り額の増加が見込まれるため、新たな消費の喚起も期待されます。
なお、今回の税制改正は令和7年分の所得に対する課税から適用を予定されていますが、関連する法律の改正が年初に間に合っていないため、従業員に対する事業者の源泉徴収事務は現行の法律に基づき実施することになります。そのため、給与所得者が減税を実感できるのは令和7年末の年末調整時になると思われます。
最後に、今回の税制改正により所得税と地方税で基礎控除及び特定親族特別控除の差額が拡大していますので、想定外の地方税の発生に注意が必要です。
税理士 花村崇裕