はじめに
贈与は時に、相続対策として用いられることがあります。生前に自分の意志で財産を分けられるという良い点もありますし、一方で、納税は受贈者が行うため納税資金も考慮して行わなければならないという難しい点もあります。また、生前にした贈与は一定の条件で相続財産に加算される(生前贈与加算といいます)という点も贈与者を悩ませる場合があります。
そこで今回は、令和5年度に改正された相続税、贈与税の改正を確認してみたいと思います。
生前贈与加算とは
相続、遺贈や相続時精算課税に係る贈与によって財産を取得した人が、被相続人から加算対象期間に暦年課税に係る贈与によって取得した財産があるときは、その人の相続税の課税価格にその財産の贈与時の価額を加算します。加算対象期間とは、相続税の課税価格に加算される暦年課税に係る贈与の対象期間をいいます。令和6年1月1日以後の暦年課税に係る贈与により取得する財産について加算対象期間の改正が行われ、加算対象期間が延長され、令和13年1月1日以後より、相続開始前7年となります。
相続時精算課税の改正
1)毎年110万円の基礎控除額が創設されました。
相続時精算課税制度は、60歳以上の父母または祖父母などから、18歳以上の子または孫などに対し、財産を贈与した場合において選択できる贈与税の制度です。この制度を選択する場合は、贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日までの間に所轄の税務署へ「相続時精算課税選択届出書」を提出しなければなりません。届出をしないと暦年贈与での計算となり、納税が発生する場合がありますので十分ご留意ください。
この制度は贈与者(財産をあげる人)ごとに選択できますが、一度選択すると、その選択に係る贈与者(以下「特定贈与者」という)から贈与を受ける財産については、その選択をした年分以降すべてこの制度が適用され、「暦年課税」へ変更することはできません。例えば「父から受ける贈与を相続時精算課税にする」と選択した場合、その後の父からの贈与は全てこの制度に基づいて計算されることとなります。贈与者ごとに選択することが出来ることから「母からの贈与は暦年課税」にしておくことも問題ありません。
相続時精算課税を選択した受贈者は、特定贈与者ごとに、1年間の贈与により取得した財産の価格の合計から、基礎控除額(110万円)を控除し、特別控除(最高2,500万)を控除した残額に20%の税率で贈与税が課されます。
相続時精算課税を選択した場合には、毎年110万円までならば課税されません。110万円を超える贈与を行った場合には、各年で超過した額の累計が2,500万円に達するまで贈与税は課税されず、2,500万円を超えた部分について20%の課税が行われるという事になります。しかし、この制度は名称の通り相続の際に「精算」されますので、相続税が発生する場合もあります。
2)土地建物が被災した場合は、価格の再計算を行えるようになりました。近年、大きな災害が発生しておりますが、災害時に贈与を受けた財産が毀損した場合の改正も行われました。特定贈与者から贈与により取得した土地又は建物が、贈与の日からその特定贈与者の死亡に係る相続税の申告書の提出期限までの間に災害により一定の被害を受けた場合には、相続時に精算される価格を再計算できることとなりました。具体的には令和6年1月1日以後に災害によって一定の被害を受けた場合で、その土地又は建物を贈与日から災害発生日まで引き続き所有していた場合に限ります。相続時に加算されるその土地又は建物の価額は、贈与の時における価額から、その災害による被災価額を控除した残額となります。
暦年課税の改正
生前贈与加算の対象となる期間が3年から7年に延長されました。
改正に伴い、延長された4年間に贈与により取得した財産については総額100万円まで加算されないこととなりました。
その年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与により取得した財産の価額を合計し、その合計額から基礎控除額110万円を控除した金額に贈与税が課されます。
この方法により贈与された財産は、相続財産に加算される期間が、相続開始前3年以内から7年以内に延長されることとなりました。また延長された4年間に贈与により取得した財産の価額については、総額100万円までは加算対象外とされます。
おわりに
以上のような改正が実施され、令和6年分から取扱いが変更となります。財産を管理しながら、次世代へとつないでいく計画については事前に検討し、ご自身に合った方法を選ぶ必要があります。相続することによって必ずしも相続税が発生するわけではありませんが、事前の確認は残されたものにとっても有用ですので、ぜひ一度ご確認ください
税理士 土屋 広高